専門家が公正証書遺言を勧める理由|あえて自筆証書遺言でも良いと思うケースとは

相続について調べたり、専門家に相談したりすると、「公正証書遺言を作りましょう」と言われることが多いと思います。

なぜ専門家は公正証書遺言をすすめるのでしょうか。


私自身も、遺言のご相談を受けたときには、公正証書遺言をおすすめします。しかし、すべての方に絶対に公正証書が必要だと考えているわけではありません。

今回は、士業が公正証書遺言をおすすめする理由と、私が「このケースなら自筆証書遺言でも」と考えるケースについてお話しします。

自筆証書遺言・公正証書遺言に加える新しい方式として「保管証書遺言」(通称デジタル遺言)が導入されることが決まりました。パソコンやスマートフォンなどで遺言の全文を作成し、遺言者本人が署名等をしたうえで、法務局の遺言書保管官の前で内容を口述し、保管を申請するという新しい仕組みです。施行日は3年以内ですが、執筆の2026年8月時点では未定です。

目次

1. 専門家が公正証書遺言を勧める理由

公正証書遺言と自筆証書遺言は、どちらも法律の要件を満たして作成されていれば、遺言としての効力があります。

大きな違いは、①遺言書としての確実性と、②亡くなったあとに遺言を使うときの手続きのスムーズさです。

自筆証書遺言は、ご自身で作成できるため、費用を抑えられるというメリットがあります。一方で、注意しなければならないこともあります。

自筆証書遺言で起こりやすいトラブル

まず、法律で定められた方式を守って作成する必要があります。

日付や署名、押印などに不備があれば、遺言の効力が問題になることがあります。財産目録についても、一定の方式が定められています。

また、形式に問題がなくても、「この遺言は本当に本人が書いたものなのか」「当時、遺言をするだけの判断能力があったのか(認知症が進んでいたのではないか)」といったことが後に相続人の間で問題になり、争われるケースも多いです。

さらに、自宅で保管している場合には、遺言書そのものが見つからないということもあります。

せっかく遺言を残していても、その存在を誰も知らなければ、相続人は遺言書がないものとして手続きを進めてしまうかもしれません。

公正証書遺言の安心感

公正証書遺言の場合は、公証人が作成に関与し、原本も公証役場で保管されます。そのため、自宅で保管する自筆証書遺言と比べて、形式面の不備や紛失、保管をめぐるトラブルは大幅に少なくなります。

遺言能力についても、公証人が本人の判断能力を対面で確認したうえで作成するため、後からその点を争われるリスクもぐんと減ります。

公正証書にしたからといって、どのような内容でも争いが起こらないという意味ではないのですが、遺言者の思いの詰まった遺言を作る段階で公証人が関与することには大きな意味があります。

「親なきあと」の手続きのスムーズさを考えると、公正証書のメリットはさらに大きい

障がいのあるお子さまの「親なきあと」を考える場合、遺言は単に「誰に財産を渡すか」を決めるだけのものではありません。

親御さまが亡くなったあと、誰が相続の手続きをするのか。その人が、お子さまのために必要な手続きを無理なく進められるのか。そこまで考えておく必要があります。

自筆証書遺言を自宅で保管していた場合、相続が始まったあとに家庭裁判所に検認の申立をし、検認手続きを受ける必要があります。相続人全員の戸籍謄本や、亡くなった方の出生からの戸籍が必要となります。

このような裁判所での検認手続きは、お子さまなどの相続人にとっては悲しみと混乱の中、ひとつ煩雑な手続きが増えることになります。検認までの期間は1ヶ月程度かかることが多いです。

一方、公正証書遺言はこれらの手続きが必要ないのです。遺言を手にしたと同時に開封して相続手続きに入ることができます。

親御さまが亡くなったあと、遺言の内容に沿って相続手続きを進めやすいことは、残されたご家族にとって大きなメリットになります。

特に、相続人の中に障がいのあるお子さまがいる場合には、「誰が相続人になるか」だけでなく、「誰が実際に手続きをするのか」まで考えて遺言を作っておくことが重要になります。

私はこうした理由から、「親なきあと」を見据えた遺言については、公正証書遺言をおすすめしています。

2. それでも自筆証書遺言でも良いと考えられるケース

ここまで公正証書遺言のメリットを書いてきましたが、公正証書には費用もかかります。

公証人の手数料が必要ですし、証人2人の立会いも必要になります。財産や相続関係を整理して、公証役場と打ち合わせをする時間も必要です。

やはり費用と労力面での負担は、すべてのケースで「何が何でも公正証書」と考えているわけではありません。

たとえば、次のようなケースにあてはまるのなら、自筆証書遺言を選ぶことも考えられます。

① 財産が預貯金のみで、法定相続分どおりに遺す場合

財産に不動産や複雑な株式がなく、預貯金だけであり、かつ配分も法律で定められた法定相続分どおりというシンプルな内容であれば、解釈の余地や争いの火種が生まれにくくなります。

② 近いうちに遺言の内容を見直す予定がある場合

「子どもの就職、結婚が決まったら、財産の分け方を考え直したい」

「近いうちに自宅を売却する予定がある」

「資産状況が大きく変わりそう」

というように、数年以内に遺言の内容が変わる可能性が高い場合です。

公正証書遺言を作ったあとに内容を変更することももちろんできますが、変更のたびに公証役場で手続きをする必要があります。

まだ家族の状況が固まっていない段階であれば、まず「取りそぎの自筆証書遺言」を作成し、生活や財産の状況が落ち着いたところで公正証書遺言を作る、という考え方もあります。

ただし、書き直すつもりのまま何年も放置するのは避けたいところです。状況が変わったときには、すぐに遺言の内容も見直す必要があります。

③ 法定相続分と異なる配分でも、家族の合意が取れている場合

法定相続分とは異なる配分を希望する場合であっても、次の条件がすべて揃っているケースです。

たとえば、親御さまの考えを家族みんなが理解していて、相続についても普段から話をしているようなご家庭です。

ただ、「今はみんな納得しているから大丈夫」とは限りません。

何年か後に相続が発生したときには、家族の生活や経済状況が変わっている可能性があります。相続人の結婚や離婚、子どもの誕生、仕事や収入の変化など、家族を取り巻く環境は変わっていきます。

そのため、家族関係が良好であることは自筆証書遺言を選ぶひとつの要素にはなりますが、それだけで判断するのではなく、遺言の内容そのものも慎重に考えておきたいところです。

  • 内容についてすでに相続人全員が納得し、合意している
  • 経済的に困窮している相続人がいない
  • 家族間の信頼関係が厚く、関係が良好である

④ 検認や照会の手間を負担に感じない相続人がいる場合

自筆証書遺言を選ぶなら、親御さまが亡くなったあとに誰が手続きをするのかも考えておきたいところです。

自宅で保管する自筆証書遺言なら、裁判所での検認の手続きが、法務局に保管するなら、照会の手続きも必要になります。

きょうだいなど、相続手続きを実際に担う人が決まっていて、相続発生後の家庭裁判所での検認や、法務局への照会といった事務的な手続きが苦にならないようなフットワークの軽い家族がいらっしゃれば、自筆証書遺言でも乗り切ることができるでしょう。

「自筆証書遺言にする」と決めるだけでなく、遺言書がどこに保管し、誰が見つけるのか、相続が始まったら誰が動くのかまで決めておくと安心です。

3.自筆証書遺言を選ぶなら「法務局保管制度」を検討して

自筆証書遺言を選ぶ場合でも、自宅の引き出しや金庫にそのまま保管しておく方法は、おすすめしていません。

遺言書の存在を誰も知らなかったり、保管場所がわからなくなったり、誰か一人が先に見つけて破棄してしまう可能性があるからです。

そこで利用できるのが、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」です。

法務局に遺言書を預けることで、遺言書の原本が保管されるため、自宅で保管する場合に比べて紛失や隠匿などの心配が少なくなります。

また、法務局に保管された自筆証書遺言については、相続開始後の家庭裁判所での検認も不要です。

保管申請の手数料は、1通3,900円です。

公正証書遺言と比べれば費用を抑えることができますので、「自筆証書遺言にしたいけれど、自宅で保管するのは不安」という場合には、検討すると制度だと思います。

ただし、法務局は遺言の内容について相談に乗ってくれるわけではありません。

遺言として有効な内容になっているか、財産の分け方に問題がないかといったことまで確認してくれる制度ではないため、その点は注意が必要です。

4.公正証書か自筆か。私が公正証書をおすすめする理由

ここまで書いたとおり、当事務所としては公正証書遺言をおすすめしています。

費用や手間はかかりますが、公証人が関与して遺言を作成し、原本も公証役場で保管されます。相続が始まったあとも検認が不要なので、残されたご家族が遺言を使って手続きを進めやすいというメリットがあります。

特に「親なきあと」を考えるご家庭では、親御さまが亡くなったあとに、お子さまのための手続きをシンプルにしておくメリットが大きいと思います。

そのとき、遺言書そのものに不備がないこと、保管場所に迷わないこと、検認をしなくても手続きを始められることは、大きな安心材料になります。

一方で、財産や遺言の内容がシンプルで、近いうちに見直す予定があったり、相続後の手続きを担う人が決まっていたりする場合には、自筆証書遺言で取りそぎの遺言を書いておくのもひとつのケースです

遺言を作るときに大切なのは、親御さまが亡くなったあとに、その遺言が実際に使われるところまで想像しておくことです。

「誰に財産を残すか」だけでなく、「誰がその手続きをするのか」。

特に「親なきあと」を考える場合には、そこまで含めて遺言を考えておきたいと思っています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

laguna-office.jp 開業準備室のアバター laguna-office.jp 開業準備室 2026年冬 「親なき後専門」行政書士事務所開業予定

コメント

コメントする


目次