障害のあるお子さまを持つ親御さまにとって、「親なき後、この子の生活費を誰がどうやって管理するのか」は、とても深刻な悩みの一つです。
その解決策としての例にあがるのが「特定贈与信託」。
今回は、この仕組みのメリット・デメリットから、気になる大手3社+地方銀行の手数料・使い勝手の比較、さらに個人的に気になっていた「店舗に通いやすい銀行を選ぶべきか?」といった疑問をまとめました。
1. 「特定贈与信託」とは?3つのメリット
特定贈与信託は、信託銀行等がお子さまのために財産を管理し、契約で定めた方法に従って定期的な給付や必要な支出への給付を行う仕組みです。
障害者手帳をお持ちの方などを中心に、所定の要件を満たすことで使える制度となっていますになります。
①「贈与税」の非課税制度 が使える
所定の要件を満たして障害者非課税信託制度の適用を受けることで、特別障害者(重度の知的障害、精神障害1級、身体障害1・2級など)は6,000万円まで、特定障害者(中軽度の知的障害、精神障害2・3級など)は3,000万円まで贈与税が非課税となります。
②信託銀行がお子さまが亡くなるまでお金を管理・給付し続ける
親御さまが亡くなった後も契約は継続し、信託財産の範囲内で、信託銀行が契約に従って長期間にわたり管理・給付を行います。
③お金の使い込みや詐欺の防止になる
原則として自由な解約や引き出しが制限されているため、お子さまが一度に大金を浪費してしまったり、悪質な詐欺に遭って財産をだまし取られたりするリスクを防ぐことが期待できます。
2. 信託銀行大手3社+地方銀行の手数料等比較
特定贈与信託は、どの銀行に預けるかで「手数料(信託報酬)」が異なります。代表的な大手3社(三菱UFJ・三井住友・みずほ)と、地方銀行の代表例として「千葉銀行」の2026年時点の情報を比較しました

2026年6月時点のWEB上の公開資料で確認した情報ですので最新情報は各自でお調べ下さい
信託銀行大手3社+地方銀行の比較(2026年時点の公開資料ベース)
| 金融機関名 | 設定時の費用 | 期間中の費用 | どんな人に向いている? |
|---|---|---|---|
| 三菱UFJ信託銀行 | 信託元本の3.30% | 金銭信託での運用時は無料(金銭信託以外での運用は元本の年1.65%と記載あり ) | 信託金額が比較的少額で、初期費用を抑えたい方 |
| 三井住友信託銀行 | 新規設定77万円 追加信託11万円 | 預金・銀行勘定等での運用時は無料(その他は商品設計・運用方法によって異なる) | 信託金額が大きい方 申込金額1000万円から |
| みずほ信託銀行 | 信託元本の3.30% | 運用対象に別途信託報酬等あり | 申込金額 1000万円から 初期費用を抑えたい方 |
| 千葉銀行 | 信託元本の3.30% | 月額11,000円 | 地元金融機関で相談しながら進めたい方 |
※各社とも契約内容や運用方法によって費用負担が異なる場合があります。詳細や最新の商品概要は必ず直接各行へご確認ください。
比較のポイント
① 設定時の費用は「定率型」と「定額型」に分かれる
三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行、千葉銀行は、信託元本に対して3.30%の設定時費用がかかる「定率型」です。
例えば1,000万円を信託する場合、設定時費用は約33万円、3,000万円なら約99万円となります。
一方、三井住友信託銀行は2025年の改定以降、信託金額にかかわらず新規設定時77万円(税込)の「定額型」となっています。
そのため、
- 信託する金額が比較的小さい場合:定率型が有利な傾向がある
- 信託する金額が大きい場合:定額型が有利な傾向がある
という特徴があります。
目安としては、信託元本が約2,300万円を超えると、三井住友信託銀行の方が設定時費用を抑えられる可能性があります。
② 期間中の費用は各社で仕組みが異なる
期間中の費用については、単純に比較することが難しい点に注意が必要です。
千葉銀行は月額11,000円(税込)の信託報酬が公開されています。
一方、大手信託銀行3社については、信託財産の運用方法によって費用の仕組みが異なります。公開資料では、指定金銭信託等の運用に伴う信託報酬は無料という記載も確認できましたが、「信託事務処理に必要な費用が発生する場合がある」という文言もあったので直接の確認が必要です。
そのため、実際に契約を検討する際には各金融機関へ最新の費用体系を確認することをおすすめします。



私も、近いうちに直接各社に相談して、聞きに行こうと思います。
③ 手数料だけでなく、サポート体制も比較したい
特定贈与信託は、一度契約すると長期間利用することになる制度です。
そのため、
- 手数料
- 申込手続きのしやすさ
- 受益者代理人による手続き方法
- 郵送やWEBでの給付請求のしやすさ
なども重要な比較ポイントになります。
特に親なきあとを見据える場合は、手数料差だけでなく、「将来、本人、または代理人が無理なく手続きを続けられるか」という視点でも検討するとよいでしょう。
3. 親なきあと、障がい者本人が店舗に行く必要はあるのか?
「将来、子どもが一人で銀行の窓口に行って手続きしなきゃいけないの?」と不安を持つ方もいらっしゃいます。
- 「受益者代理人」が給付請求等を代行できる
重度の障害がある場合、契約時に「受益者代理人」(親族、成年後見人、信頼できる専門家など)を選定します。銀行とのやり取りや、給付請求などの手続きは受益者代理人が行うことができます。 - 郵送やスマホアプリ、WEBで完結する
大手信託銀行では、医療費の領収書などを提出して給付を受ける際、専用封筒での「郵送」 や、「スマホアプリ」、「WEBシステム」 での手続きが整備されてきています。
そのため、「自宅の近くに店舗があるか」を必ずしも最優先にして銀行を選ぶ必要はないのかもしれません。ネットや郵送の手続きがスムーズなところを選ぶ方が、将来の代理人にとっても負担が少なくなる選択肢として検討できます。
4. 知っておくべき4つのデメリット
安心感の大きい特定贈与信託ですが、当事者ご家族の間では「思っていたより使い勝手が難しい点もある」という声も聞かれます。契約後に困らないためにも、以下の4つのデメリットは契約前にしっかり確認しておきましょう。
① 親なき後から給付を始める制度ではない
特定贈与信託は、生前贈与の制度であり、「生前贈与」を目的とした制度であり、親御さまの死亡を給付開始条件にすることは基本的に想定されていません。契約を締結し、税務署等の確認手続きが完了したタイミングから、定期的にお子さまへの給付が始まる設計となることが一般的です。契約時期によっては親御さまが若く元気なうちから給付がスタートすることになる場合もあるため、その点の資金計画を考慮する必要があります。
② 初期費用が高め
三菱UFJやみずほのような「元本の3.30%」がかかるタイプだと、3,000万円を預けるだけで約99万円、上限の6,000万円なら約198万円もの初期手数料が発生します。また、追加信託をするたびに所定の手数料がかかるため、一般的な「小まめな積立貯金」のような感覚で追加していく使い方は適していないと思われます。



特定贈与信託を利用しない場合の相続税の試算と、
利用する場合の手数料+残りの資産にかかる相続税の試算
どちらのメリットがあるかを検討するといいですね
③ 臨時の引き出しには毎回「領収書の提出」が必要
毎月の定額給付とは別に、急な入院や施設入所などでまとまったお金が必要になった際、自由におろすことはできません。必ず何に使ったかを証明する領収書を銀行に提出し、審査を受ける必要があります。
④ 銀行から「成年後見人」を求められるケースもある
特に注意したい点として、特定贈与信託を利用するにあたり、障がいの状況によっては契約時に成年後見人が必要となることもあるようです。
信託契約はあくまで個別の契約なので、信託銀行側が契約条件に「成年後見人をつけること」といえば、それに従うか、後見人をつけない場合は契約を結べないということも出てくるでしょう。



成年後見人が必要になるか否かは 事前に信託銀行にしっかり確認しておくといいでしょう。
5. 特定贈与信託は「始める時期」に注意
大事なポイントですが、特定贈与信託に預けたお金は、主に金利が極めて低い預金や金銭信託などで守られるため、「預けている間、お金はほぼ増えない」という特徴があります。
もし親御さんが40代〜50代と若く、夫婦共に健康で、現役で働いているうちから大金を信託銀行に預けてしまうと、「NISA」などを活用してお金を増やすチャンスを失ってしまう可能性も考慮しなければなりません。
そのため、以下のような「時期の使い分け」を視野に入れてみるのも一つのアイデアです。
- 【増やす時期(親が若い現役時代)】
手元のお金はNISAなどの非課税制度を活用して、増やす。子どもに将来渡すための「原資そのもの」をまずは育てることを優先します。 - 【守って届ける時期(親が高齢になってから)】
親御さまが定年を迎えたり、将来の相続や親自身の認知症リスクをリアルに意識し始める年齢(60代〜70代など)になったタイミングで、増やした投資信託を現金化し、子どもに財産を確実に届けるために「特定贈与信託」へ移す。
一概にどのタイミングが正解とは言えませんが、「ただ早めに入る」のではなく、運用とのバランスを考えて契約時期を検討することが大切です。
5. 特定贈与信託はこんな方におすすめ
特定贈与信託は、すべてのご家庭に向いているわけではありませんが、特に以下の2点に当てはまるご家庭には有力な選択肢となります。
- まとまったお金があり、親なき後を見据えて今すぐ相続税・贈与税の対策をしたい
親御さまの資産が多く、将来高い相続税がかかることが確実な場合、生前のうちに数千万円を無税でお子さまへと移動できるため、大きな節税効果が期待できます。 - 身内にお金の管理を頼める、頼れる親族がいない
「子どもは一人っ子」「兄弟がそれぞれ障がいを持っている」「親戚にお金の管理を任せるのはトラブルが心配」という場合、信託銀行が親亡きあとも、ルール通りにきっちり管理・給付してくれるため、安全にお金を残しやすくなります。
6. 親なきあと「だけ」にお金を残すための類似サービス
「自分が元気なうちは給付を開始したくない」「親亡きあとだけにお金を残したい」という場合は、特定贈与信託以外のサービスを検討、あるいは組み合わせるのも良い選択肢です。
① 障害者扶養共済制度
自治体が行っている公的な共済です。将来の社会的自立が難しいと見込まれる障がいのある子に対して、親が毎月掛金を支払い、親が亡くなった(または重度障害になった)時点から、お子さんに一生涯、毎月定額(最大4万円)の年金が支給されます。 掛金は「全額が所得控除となります。


② 生命保険信託
親が元気なうちから、毎月「生命保険料」を支払い、親が亡くなったときに、初めてまとまった死亡保険金が信託口座に振り込まれ、そこからお子さんへの定期給付がスタートします。手元にまとまった一括資金がないご家庭でも、将来子どもに残してあげやすい仕組みです。
③ 家族信託
信託銀行ではなく、信頼できる他の家族にお金を託す方法です。「親が元気なうちは親の生活費に使い、親が亡くなった後は障害のある子のために使う」という、それぞれの家庭に合わせた自由な設計が可能です。 特に収益不動産をお持ちの方などには有力な選択肢のひとつとなるでしょう。
家族信託は、家族間の信頼関係が極めて重要となる契約になります。受託人には領収書の整理や、毎年ごとの報告業務などの負担が長期に渡り発生しますので、それぞれの家族の意思やライフプランを見越して検討する必要があります。
まとめ:最適な「親なきあと対策」はそれぞれ
- 一括で出せるまとまった資金があり、贈与税の非課税制度を活用しながら、お子さまに確実に財産を残したい場合 ⇒ 特定贈与信託を候補に。
※親亡きあと専用の制度ではないため、契約時には給付開始時期についてよく確認しましょう。 - 手元に一括で託せるような資金はなく、毎月の積立や親亡きあとの給付開始にこだわりたい場合 ⇒ 障害者扶養共済 や、生命保険信託などを優先的に検討すると良いでしょう。
特定贈与信託な選択肢の一つですが、すべてのご家庭に向いているわけではありません。
遺言、生命保険信託、障害者扶養共済、家族信託など、それぞれの家庭の状況に応じて組み合わせを考えることが大切です。
何より重要なのは、「いつか考えよう」ではなく、元気なうちに少しずつ準備を始めることなのかもしれません。
お子さまの就労状況・収入・住まい・インフレによって、将来いくら必要かは変化します。
先がどうなるのかはわからず不安に思われていることと思います。
小さな安心をつかむために、日々を穏やかに過ごせるように。
みなさんにとってこの情報がお役に立てれば幸いです。

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