なぜ今、制度が変わるのか?
2026年6月、成年後見制度を大きく見直すための改正法が成立しました。
成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分な方を法的に支援するための大切な制度です。
しかしこれまで、
- 一度利用すると原則として本人が亡くなるまで続く
- 家族の負担や後見人への報酬負担もずっと続く
といった利用者に負担がのしかかる課題も指摘されてきました。
今回の改正は、そうした課題を見直し、本人の意思をより尊重しながら、必要な支援を受けやすくすることを目的としています。
施行は2028年頃までに予定されており、今後さらに具体的な制度設計や運用ルールが整備される見込みです。
「親なきあと」を心配するご家族にとっては、今後の備え方にも関わる大きな転換点になるでしょう。
成年後見制度には、大きく分けて「法定後見」と「任意後見」があります。
今回の改正では両制度に見直しが行われますが、特に大きく変わるのが、家庭裁判所が関与する「法定後見制度」です。

本記事では、親なきあと対策にも関わりの深い法定後見の改正内容を中心に解説します。
① 必要なときだけ利用できる制度へ
今回の改正の大きなポイントの一つが、「必要な期間だけ利用する」という考え方です。
現在の制度では、たとえ相続手続きや不動産売却など、一時的な目的で成年後見制度を利用した場合でも、原則として制度はその先も継続します。
改正後は、必要な手続きや支援が終わった後に裁判所の許可を得て制度を終了できる仕組みが導入される予定です。
例えば、
- 遺産分割協議が終わるまで
- 保険金の請求手続きが終わるまで
- 不動産売却が完了するまで
といった形で利用しやすくなることが期待されています。
利用しやすくなる一方で…
この見直しによって制度のハードルは下がるかもしれません。
一方で、私は少し気になる点もあります。
これまでの制度では、同じ後見人が長期間関わることで、
- 本人の性格
- 生活歴
- 苦手なこと
- 家族関係
などを理解した上で支援を続けることができました。
もし制度の利用と終了を繰り返すようになると、その都度支援者が変わる可能性もあります。



制度が使いやすくなることと、支援の継続性をどう両立するかは、今後の課題になりそうです。
② 「後見・保佐・補助」が見直される
現在の成年後見制度には、判断能力の度合いに合わせて
- 後見 (判断能力なし≒重度)
- 保佐 (判断能力著しく欠く≒中度)
- 補助 (判断能力を欠く≒軽度)
という3つの類型があります。
| 類型の名前 | 法律上の目安 | 当事者の方のイメージ(例) |
| ① 後見(こうけん) | 判断能力が常に欠けている状態 | 日常の買い物も含め、自分一人でお金を管理したり、生活に必要な契約を行ったりすることが日常的に困難な状態。 |
| ② 保佐(ほさ) | 判断能力が著しく不十分な方 | 日常のお買い物の管理はおおむねできるが、定期預金の解約や、福祉施設の入所契約など、重要な財産管理や法的な契約行為全般を一人で行うのが難しい状態。 |
| ③ 補助(ほじょ) | 判断能力が不十分な方 | 日常の買い物は問題なくできるが、不動産の売買、遺産分割協議、大きなローンの契約など、複雑な手続きを一人で行うのは強い不安や困難がある状態。 |
今回の改正では、この仕組みが大きく見直され、より柔軟な制度へ移行することになりました。
これまでの制度は、「判断能力の程度によって後見・補佐・補助3つのレールに分ける」という考え方でした。
一方、新しい制度では、「補助」に統一の方向となり、「本人にどんな支援が必要なのか」をふまえ、
必要な権限を個別に設定していく方針へ変わっていきます。
つまり、「後見だから全部任せる」ではなく、
「預金管理だけ」「相続手続きだけ」「施設契約だけ」
といった形で、その人に必要な支援を組み合わせる仕組みへ近づいていくイメージです。
| ポイント | 現在の制度 | 改正後の制度(施行後) |
|---|---|---|
| 制度の仕組み | 判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型に分かれる | 類型を見直し、本人に必要な支援内容に応じて権限を設定する仕組みへ |
| 利用期間 | 一度始めると亡くなるまで続くことが多い | 必要な期間だけ利用し終了できる仕組み |
| 支援の形 | あらかじめ決められた枠組み | 本人に合わせて柔軟に設計 |
| 本人の意思 | 本人の保護を重視 | 意思尊重をより重視 |
| 家族の負担 | 制度が続く限りずっと管理が必要 | 必要な場面ごとの利用が想定される |



成年後見人という名称も変わるのかもしれませんね。
③ 本人の意思がより重視される時代へ
今回の改正では、「本人の意思の尊重」も大きなテーマになっています。
障がいがあっても、認知症になっても、その人らしい人生を送る権利があります。
一方で、ご家族の立場からすると悩ましい場面もあるかもしれません。
例えば、障がいのある方に
- 金銭管理が苦手
- 悪質商法にだまされやすい
- 高額な契約をしてしまう
- SNS経由の詐欺被害に遭いやすい
という状況があった場合です。
本人が「後見契約は必要ない」といったら成年後見制度は利用できません。
本人の意思を尊重することと、本人を守ること。
この2つのバランスをどのように取るのかは、今後ますます重要なテーマになっていくでしょう。
必ず使いやすくなるとは限らない
今回の改正は、多くの人にとって利用しやすい制度へ近づくための前向きな見直しだと思います。
ただ、すべての人にとって同じように使いやすくなるとは限りません。
例えば、重度の知的障害があり、
- 財産管理
- 年金手続き
- 福祉サービス契約
などを継続的に支援してもらう必要がある方の場合は、現在のように包括的な支援を受けられる仕組みの方が安心だと感じるご家族もいるでしょう。
制度が変わるからといって、必ずしも全員にとって便利になるとは限りません。
大切なのは、「制度がどう変わるか」だけではなく、
「その人とその家族にはどんな支援が必要になりそうか」を考えることだと思います。
これから親が考えておきたいこと
今回の改正によって、成年後見制度はより柔軟でオーダーメイド型の制度へ近づいていきます。
しかし、制度が複雑になるということは、それだけ家族自身が選択しなければならない場面も増えるということです。
- 成年後見制度の法定後見を利用するのか
- 成年後見制度の任意後見契約を活用するのか
- 遺言書で備えるのか
- 信託を検討するのか
選択肢は一つではありません。
親なきあとに向けて大切なのは、「正解を探すこと」ではなく、「わが家に合う方法を考えること」です。
制度が変わろうとしている今だからこそ、早めに情報を集め、家族で話し合い、必要に応じて専門家に相談しておくことが大切になるでしょう。
※本記事は2026年7月時点で公表されている法改正の内容をもとに作成しています。制度の詳細な運用については、今後の政省令や運用指針等によって変更される可能性があります。



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